記憶術の始祖シモニデス
古代の記憶術に関する本はとても少なくて、基本的に以下の3冊と言われています。
- 「弁論家について」キケロ
- 「弁論家の教育」クインティリアヌス
- 「ヘレンニウスへ」作者不詳
日本語版なし
このどれもに共通して記憶術の始祖として出てくるのがシモニデス(紀元前556年頃 - 紀元前468年)です。伝えられている話によると、あるときテッサリアの貴族スパコスが祝宴を催し、詩人だったシモニデスは依頼されて主人を称える詩を披露しました。ところが詩の中にカストルとポリュデウスという双子の神を称える内容が含まれていたために、スパコスは気を悪くしてお礼を半分しか払いませんでした。そして、残りはシモニデスが称えた双子の神から貰えばよい、と言われてしまいます。そしてその後その祝宴のさなか、シモニデスに面会を求める二人の若者が来たということでシモニデスはその場を離れて外に出かけます。
ところが行ってみると誰もいません。その時、祝宴を開いていた大広間に天井が抜けて、スパコスを含めその場にいた全員が下敷きになってしまったのです。その上、あまりに死体の損傷が激しく、誰がどの死体なのか全く見当がつきませんでした。そこでシモニデスはどの遺体が誰であるのか、その座っていた場所から判断して死体を引き取りに来た親族に教えてあげたのですが、彼はこの経験から「秩序だった配置こそ確実な記憶にとって必要不可欠」と思い知り記憶術の発明につながったそうです。実際、17世紀に発見された石版に彼の肩書きが載っており、そのなかには「記憶補助方法の発明者」とありました。ちなみに面会にきた二人の若者こそが双子の神だった、と言われているのは言うのは言うまでもありません。
(記憶術の歴史に関する研究は殆どなく、以下の本を参考にさせて頂きました。)